hgot07 Hotspot Blog

主に無線LANや認証連携などの技術についてまとめるブログです。ネコは見る専。

2.4GHz帯無線LANのチャネルはぶつけてしまった方がよい

もう少し正確に書くと、
2.4GHz帯無線LANのチャネルは、少しずらすよりは、ぶつけてしまった方がよい(スループットが上がる)」です。

 

無線LANがよく設計されたホテルや会議場、空港などでは、下の図のように1-6-11chに綺麗に山が立っています。

 

1-6-11ch

1-6-11ch

上はシドニー空港(SYD)の例ですが、おそらく無線LANコントローラの自動割り当てによるものでしょう。12chに居るAPはダメな子です。あと、8ch付近にチャネルボンディングが有効なAPが居ますが、2.4GHzでこれをやられると、周囲が大迷惑です。

次の例はどうでしょう?

bad channel assignment

bad channel assignment

よく見ると1-6-11chにホテルWi-Fiが見えますが、持ち込みのAPが隙間に入っていて、かなり酷い電波状況です。実際、この時の無線LANはまともに使える品質ではありませんでした。

 

なぜ1-6-11ch構成が一般的なのか

2.4GHz帯の無線LANでは、隣り合うチャネルのスペクトルが大きく重なっているため、この重なりをできるだ避けるようにチャネルを割り当てようとすると、全部で13ch (USでは11)ある中で3つしか取れません

例えば1chと3chのように、隣接するAPのチャネルが少しだけずれていた場合、隣の通信はノイズになり、データ転送のエラーが増えることになります。

このため、多数のAPを並べるような用途では、1-6-11chを使うのが業界のベストプラクティスになっています。

[2021/5/21追記1] EUでは日本と同じ13chが使えるので、少しだけ重なりを持たせた4チャネル構成(1-5-9-13ch)というのも検討されていました。しかし、隣に3チャネル構成のエリアがあると当然干渉しまくるので、使わない方がよいとする文書が多数あります。(私は4チャネル構成を見たことがありません)

 

チャネルがぶつかったらもっと酷いことになるのでは?

無線LANシステムが一つしかない場合でも、ある空間に複数のAPから同じチャネルの電波が届くことがあります。このような環境で、複数の端末が異なるAPと通信していると、同じチャネルの通信が時空間でぶつかり、スループットが低下するでしょう。

「それなら、スペクトルが多少重なっても、チャネルをずらした方が得策では?」

どうでしょうね?既に1-6-11chが使われているなら、隙間の3chを使ってみるとか?

結論としては、近接したチャネルを使うよりも、同じチャネルを使ったほうが「マシ」です。次節で見てみましょう。

 

実験!

twitterで() 識者に紹介されたビデオです↓

www.youtube.com

近いチャネルを使うよりも、チャネルをぶつけてしまった方が、スループットへの影響が若干小さいことが分かります。

この理由として、以下のような説明を見かけたことがあります。どれだけ合っているのかは不明ですが。
「隣接チャネルの信号は、単純なノイズとして(電子レンジと同様の)、妨害になる。同チャネルの通信ならば、APや端末は互いに制御パケットをデコードできるので、ある程度の制御が可能」

2011年のビデオなので、11nの機材が使われていますが、11acや11ax、MIMOではどうなるのかも気になるところです。あと、機材によって違いが出るかどうかも、気になります。

 

[2021/5/20追記] 参考まで、チャネルをぶつけた場合に有意な差が出なかったケースもあるようです。

 

[2021/5/21追記2] 上の例で「なーんだ、スループット上がらないじゃん!」と思うかもしれませんが、この結果が興味深いのは、「同チャネルに設定しても隣接チャネルと比べて大幅に性能劣化するわけではない」ところでしょう。

1-6-11chが埋まっている場合を考えてみます。例えば隙間の3chや4chを使おうとすると、自分は両側(1ch, 6ch)から干渉を受けることになり、逆に両側に干渉を与えることになります

 

[2021/5/21追記3] Ciscoが11bで4チャネル構成を試していたときの文書を見つけました。(11bは古いぞ!)

  • "Channel Deployment Issues for 2.4-GHz 802.11 WLANs,"  Cisco Systems Technical References, 2004.  (Ciscoリンク切れ)

このテストでは、1chをぶつけた1, 1, 6, 11ch構成と、間隔を詰めた1, 4, 8, 11ch構成を比べており、前者でクライアントあたり601.1KB/s、後者で348.9KB/sの結果とのこと。比較条件が当記事の主題と異なるのですが、以下の技術的考察が関係ありそうです。

Note that even when two access points shared channel 1, the overall performance was greater than in the four-channel scenario. This is because the CSMA protocol created a holdoff when the clients on the same channel decoded that the interference was another 802.11 signal. In the four-channel scenario, the client could not decode the interfering signal, reacted as if it was low-level noise rather than a holdoff, and sent the packet. This resulted in a collision and a retransmission on both clients.

 

結論

  • 2.4GHz帯で隣接チャネルの利用は避ける。4ch以上離せないなら、むしろ同一チャネルの方がマシ。
  • 2.4GHz帯では1-6-11chのみ使う。チャネルボンディング(HT40)は周囲に大迷惑なので禁止。
  • コントローラの最適化機能をうまく利用する。
  • もちろん、同じチャネルの強い信号が同じ空間に入らないように、基地局の出力を調整する(絞る)方がよい。
    (家庭向けのハイパワーモデルは、集合住宅ではよろしくない)

 

余談 (追記)

干渉を避けるために「5GHz帯を使え!」はその通りですが、電波の届く範囲が狭くなるのと、屋外利用に制約があるので、公衆無線LANでは使いにくい面もあります。

 

 

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