hgot07 Hotspot Blog

主に無線LANや認証連携などの技術についてまとめるブログです。ネコは見る専。

Tokyo 2021 OpenRoaming / Passpointトライアル開催中(2021/7~2021/9/15)

7月から9月15日にかけて、ひっそり開催中です。

ひっそりですが、みなさんこの機会にお試しください!

cityroam.jp

ざっくり言うと、普段提供しているeduroam, Cityroam, OpenRoamingのサービスに加えて、世界のキャリアやISPに声掛けすることで、一時的にサービスを有効化しているものです。

なんで大々的にではなく「ひっそり」やっているかって?その辺の経緯を記録しておきます。

 

トライアルの内容

Cityroamでは、eduroamとOpenRoamingを含めた、セキュアな国際無線LANローミングサービスを提供しています。OpenRoamingには、通信事業者間で個別のローミング契約が不要の settlement-free model と、契約が必要な settled model があります。Cityroamでは前者の方を定常的にサービス提供しています。

Tokyo 2021 OpenRoaming / Passpointでは、まだOpenRoamingに乗っていない、あるいは、乗るかどうかも決まっていない通信事業者に参加を呼び掛けて、OpenRoamingまたはPasspointによるローミングサービスを一時的に提供しています。具体的には、AT&TとBoingo、GlobalReach Technologyが参加してくれました (執筆時点)。

AT&Tの利用者は、端末にSIMカードが入っていさえすれば、無線LANに安全に自動接続されます。SIM認証なので、利用者がID/パスワードを打ち込むような手間がありません。最近数年内に市販されたAT&Tの端末には、Passpointのプロファイルが仕込まれているため、AT&TのPasspointプロファイルを登録した基地局ならば、Passpointによって自動接続されます。AT&TはまだOpenRoaming接続用のプロファイルを利用者に提供していないので、現在の接続方法はOpenRoamingとは異なります。

実は、スマートフォンには、WPA2 Enterpriseの基地局を見つけた際、そのSSIDに依らず手当たり次第SIM認証を試みるものがあります。iPhoneもこのような動作をします。キャリアとのローミングの有無に依らず、基地局の管理者は wlan.mnc<MNC>.mcc<MCC>.3gppnetwork.org というレルムの付いた認証要求をログの中に見つけることができます。ということは、裏でRADIUSさえキャリアとつないであげれば、端末が勝手に接続してくれる?🤔 Bingo! 実際、AT&TのSIMを入れた端末なら、AT&Tのキャリア端末でなくとも、なにもしてないのに公衆無線LANにつながったりします。

Boingoは、AT&Tと並んで、Passpointを強力に推進してきた事業者です。国内では馴染みのない社名かもしれません。 海外出張の多い人なら聞いたことがあるかも。

Boingoは、まだウェブ認証での利用が一般的ですが、Passpointプロファイルも提供されています。利用者が https://passpoint.boingo.com/ からプロファイルをダウンロード、インストールすることで、Passpointによる安全な自動接続が可能です。BoingoもまだOpenRoamingに乗っていないため、トライアルではBoingo向けのPasspointプロファイルを基地局に設定することで、サービスを実現しています。
(こういったローミングの交渉の難しさ、分かります?)

GlobalReach Technologyは、Passpointで最先端のソリューションを提供している会社の一つです。GlobalReach Connectという接続アプリをリリースしており、今回はそのアプリのトライアルができるように、イベントコードが発行されています。

 

なんで「ひっそり」?

2020年に、とある巨大国際イベントがありましたよね?(なぜか開催は2021年)

夏の観光シーズンでもあり、例年ならば大勢の観光客が海外からやってきていたはずで……したが、コロナ禍のため、それは無理でした。しかし、イベント関係者が多少は出入りしており、そのような人々に対して、突然つながる利便性の高いフリーWi-Fiを提供できるのではないかという目論見がありました。イベント関係のインバウンドで、通常よりも若干アクセスが増えるのが観測できるのではないかという、調査上の期待もありました。

しかし!

コロナもイベントも二転三転して、積極的に「使ってね!」とは広報しづらい状況になってしまいました。😢

結局のところ、ほとんど客足は期待できない結果となりました。(それでも少し面白い知見は得られたのですが、これは別途)

写真は、新宿中央公園にあるシスコ社のサイネージです。東京都のスマートポール事業(令和2年度)によるものですが、今回緊急でCityroamも吹いてもらえました。もしイベントの参加者に観光が許されていたら、ここでの利用者もそれなりに増えていたのでしょう。

新宿中央公園のデジタルサイネージ (シスコ運用)

新宿中央公園デジタルサイネージ (シスコ運用)

 

トライアルの背景と目的

Wireless Broadband Alliance (WBA)では、2016年から2018年までの各年、期間限定で City Wi-Fi Roaming trial というのを実施していました。これは、世界のキャリアやISP、都市Wi-Fiなどを結んで、世界的なローミングを実現しようというトライアルでした。日本では、東北大学・セキュア公衆無線LANローミング研究会が2017年に初参加し、2018年も継続参加しました。

別エントリで書きましたが、WBAではPasspointをベースとした国際的なローミング基盤を構築する計画があり、上記トライアルはその準備でもありました。結局、WBAにおける独自開発は進められず、Ciscoで開発中だったOpenRoamingをWBAが引き継ぐ形に落ち着きました。

さて、このOpenRoaming、2020年にWBAでローンチされたはいいけど、いったいどこで使えるのか……? Ciscoが手掛けていたCanary Wharf (London)とLake Geneva (IoT関係)に次いで、日本のCityroamはたぶん3番乗り、スペインの一部都市(詳細不明)、AT&TによるAustinでのトライアル、あとは……といった感じで、あまり実装が進んでいるようには見えません。(WBAの広報さんがんばえ~)

プロファイルを提供するIdP側はというと、GoogleAppleSamsungのアカウントが使えるようになって、以前よりだいぶ間口が広がった感じですが、それでもまだまだでしょう。とにかく、利用者がいちいちサインアップする仕組みでは、サービスの急速な普及は望めないでしょう。eduroamのように既に広く利用されているか、SIM認証のように既に準備済み(プロビジョニング済み)ならば、加速が期待されます。

ところが、肝心のキャリアがまだ乗っていませんね?

ΩΩΩ<な、なんだってー!?

そう、これではCase Studyもなかなか出て来ない。個人的には、City Wi-Fi Roaming trialをもう少し継続して、キャリアの分析を助けるべきだったと思います。

しかしながら、以前のようにWBAが主導でトライアルを実施するには、スピード感が足りません。ところで、日本には既に13市町80基以上のOpenRoaming対応基地局がありますよね……🤔

それなら、自分たちでやっちゃえ!

というわけで、思い立ったが吉日で、WBAのメンバーにCall for Participation (CFP)を回しました。例の巨大イベントも呼び水として入れておきましたが、COVID-19のせいで観光客は期待できないよとは明記しておきました。

後付けみたいですが、今回のトライアルの目的を記すならば、こんな感じ。

  • OpenRoamingサービスのインキュベーション
  • OpenRoaming実装・展開の加速

 

他の事業者の反応は?

もう少し多くのキャリアに乗ってもらえると嬉しかったのですが、いきなりの話で対応できなかったんだと思います。一応、期間中も参加を待っている状態ではあります。

一部のキャリアは、興味を持って動いてくれたのですが、まだ認証連携のシステムが実装も運用も追いついていない感じです。とりあえず、今回のがきっかけで実装に着手したところもあるようなので、目的の一つは果たせたのかなと思います。

 

[2021/8/26追記]

裏の裏はやっぱり裏

技術に興味のある方に、少しだけ情報提供。

今回、OpenRoamingの認証連携ネットワークが既にあったことにより、トライアルの実施が随分楽でした。OpenRoamingをまだ有効にしていないAT&TとBoingoでしたが、いずれもOpenRoamingに対応したハブ事業者にRADIUSで接続済みでした。そのため、Cityroamとしては、事業者のレルムごとに静的な経路をハブ事業者に向けるようにRadSecを設定するだけで、認証連携が実現できました。

従来はどうだったのかというと、Cityroamとハブ事業者の間でproxyを接続するために、IPsecRADIUSの設定が必要でした。IPsecでは、使用するアルゴリズムプロトコルIPアドレス、それに共通鍵を事業者間で交換する必要があります。RADIUSは、レルムに応じた経路の設定に加えて、やはり共通鍵の交換が必要です。面倒くさいですね……。

RadSecは、最初の設定と証明書の取得がちょっとホネですが、その後の作業が楽になります。もし相手の事業者もOpenRoamingに参加していて、DNSにNAPTRレコードが設定されていれば、Dynamic Peer Discoveryのお陰でRADIUSの経路設定すら不要になります (OpenRoaming本来の使い方)。まぁ、良いことばかりではないのですが(意味深)、楽ができたなぁというのが今回の感想でした。

 

おわり