hgot07 Hotspot Blog

主に無線LANや認証連携などの技術についてまとめるブログです。ネコは見る専。

Passpoint/次世代ホットスポットはどこまで進んだのか

「次世代ホットスポット(NGH)はいつになったら*次世代*じゃなくなるんですか?」とは、WBA内でもちょっとネタにされているのですが、実際のところどれぐらい進展したのでしょうか。今回のエントリは軽めで行きたいと思います(フラグ

Release 3になったPasspoint

Hotspot 2.0としても知られるPasspointは、Release 1,  2を経て、3になりました。ざっくり述べると、基本となるSSIDの自動選択がRel. 1で定義された後、Rel. 2 でOnline Sign-Up (OSU)などが加わって、オンサイトでのサインアップを容易にする仕組みが入りました。(OSUについては、オープンWi-Fiが利用されること、普及している安全な本人確認手法がないことから、個人的にはよろしくないと思っています)

執筆時点(2020/1)で、国際的なベンダでもRel. 2に対応している基地局は少なく、国産ベンダは全滅です(そもそもPasspoint自体に非対応で、一社のみRel. 1対応らしい)。2019年10月のWBAの会議において、やっとOSUのデモが出始めたといったところです。端末側はAppleがまだRel. 1止まりで、GoogleAndroid 10でRel. 2対応とのこと。

Rel. 3では、以下の機能が付加されました。

  • Acceptance of a Hotspot Operator’s terms and conditions, the use of three new ANQP-elements, the Roaming Consortium Selection element, use of a Single SSID for Online Sign Up.
  • The new ANQP-elements are: Operator Icon Metadata, Venue URL and Advice of Charge.

"Roaming Consortium Selection element"を使うことで、レルム(NAI realm)でRoaming Consortium (RC)が判断できないような場合でも、どのRCの認証連携ネットワークに認証リクエストを投げるべきかを基地局のところで判断できるようになります。ただし、現在のNGHでは複数RCを扱う仕組みが十分ではないので、この属性値をもってすぐに実用になるかどうかは不明です。

"Operator Icon Metadata"や"Venue URL"は、例えばフリーWi-Fiにおいて、サービスを提供している事業者やスポンサーはどこかといった情報を、利用者に伝えるのに役立つでしょう。1X認証は、自動接続されて、標準ではキャプティブポータルがないため、従来はスポンサーの不満がありました。

Passpoint (Hotspot 2.0)の仕様書は、https://www.wi-fi.org/discover-wi-fi/specifications から取得できます。

次世代ホットスポット対応のRoaming Federation

Passpointのみであれば、北米の大手キャリアや、Wireless ISPであるBoingoなど、大手ホテルチェーン、ニューヨークの街頭キオスクLinkNYC、UKのInLinkUKなどで導入されています。これらは基本的に自社のサービスに閉じており、他社とのローミングがほとんどできていません。

Passpointではなく、単なる1X認証ならば、フリーWi-Fiでもローミングを実現した例が幾つかあります。例えばシンガポールのWireless@SGでは、地元の5社がそれぞれに基地局を整備し、アカウントを発行し、どこの基地局からも利用できるようなローミングシステムが実現されています。

他社とのローミングを実現するためには、認証連携ネットワークと、その運用体制が必要です。商用の無線LANサービスのローミングについては、通信事業者を仲介するローミング業者が存在し、基本的に二社間のローミング契約によってシステムを運用する仕組みがあります。ただし、Passpointへの対応はまだ十分ではないようです。

一方、フリーWi-Fiについては、まだ世界的なローミングシステムがありません。フリーか商用かを問わず、広域のローミングを実現しようとするプロジェクトが幾つか立ち上がりました。まず重要なのが、相互接続のための標準規格で、WBAにおいてWRIX (Wireless Roaming Intermediary eXchange)が策定されました。WRIXは幾つかのパートに分かれていますが、執筆時点のバージョンでWRIX-i, -n, -L, -d, -fの五つがあります。詳しくは以下のサイトをどうぞ。

wballiance.comさてこのWRIX、2019年に改訂作業が進められ、新しい仕様が盛り込まれています。例えば、相手の事業者を識別するための属性値としてWBAIDが新規に定義されました。また、従来はIPsecが基本だった通信路に、RadSecを使用する仕組みが追加されました。

ローミングの技術仕様だけではシステムは作れないので、具体的な認証連携ネットワークと運用体制を構築するためのプロジェクトがあります。現在、世界規模を目指したものとしては以下があります。

  • WBA Roaming Federation (仮名)
  • Cisco OpenRoaming

WBAローミング基盤は、2019年内にローンチの予定だったところ、遅れが生じており、私は2020Q2になると予想しています(正式なアナウンスではありません)。WBAでは、2016~2018年の間にCity Wi-Fi Roamingというトライアルを実施しましたが、これが上記ローミング基盤の実現を目指したものでした。同トライアルでは、次世代ホットスポットに準拠したセキュア化された公衆無線LANを市街地に展開し、その基地局でキャリアのSIM認証や、ISPのアカウントを受け入れる実証実験が行われました。

他方、OpenRoamingについては、詳細がまだ色々と謎です。WBAローミングフェデレーションを設計しているさなかの2019年春に、WBAメンバーでもあるCiscoから突然発表になったものです。WBAとの関係などが疑問のまま、10月のWireless Global Congressを迎えました。当初、情報が欲しいならプロジェクトにメールアドレスを登録して欲しいというので、サインアップしてみたものの、現在までほとんど情報提供がないという状況です。

様々なソースから得られたのは、以下のとおりです。(間違いもあるかもしれません)

  • OpenRoamingは、WBAのものとは別物のローミングフェデレーション。(2020/5/15追記: 3月にWBAに譲渡され、合流しました)
  • 5Gにおけるセルラー/Wi-Fi統合や基地局周りの設定自動化も視野に入れた仕組みを目指している。 (2020/5/15追記: この部分はWBAに譲渡されず、Cisco DNA Spacesに残りました)
  • openを強調しており、他ベンダにも参加を呼び掛けている。
  • 2019/12時点で、Cisco DNA Spacesの利用が前提で、Ciscoの現顧客の中から一部に呼び掛けてclosed betaでテストしている状況らしい。
    参加申請しても、すぐに参加させてはくれるような状況ではない。
  • RadSec (Dynamic Discovery付き)を基本にした認証連携アーキテクチャらしい。

OpenRoamingについて比較的分かりやすい解説動画がこれ↓でしょう。とにかく謎が多く、まだ全然オープンではない感じです。(そんな展開で大丈夫か?)

techfieldday.com

国内ではCityroamがNGH展開中

我々が手掛けている国内のローミング基盤Cityroamも、世界規模に拡張できるアーキテクチャですが、基本的には上記のローミング基盤と連携することを目指しています。2017年, 2018年のWBA City Wi-Fi Roamingでは、実際に海外キャリアやBoingoの利用者を受け入れて、日本各地の基地局で利用できることを確認しました。(WBAのマップにも日本の記載があります)

OpenRoamingがまだ流動的なのが気がかりですが、少なくともWBAのフェデレーションは立ち上がってくるだろうと思います(遅れが不満ですが)。フリーWi-Fi事業者は、Passpoint対応の基地局を導入することで、より楽なローミング契約で、海外キャリアなど受け入れられるようになる可能性があります。反対に、国内のキャリア・ISPは、世界各地の公衆無線LANで安価にローミングを有効にできるようになると考えられます。NGHの普及により、フリーWi-Fiにも国際ローミングが導入されて、世界各地で自動接続により安全なネットワーク利用ができるようになることを願っています。

 

[2020/5/13追記]

Passpointで遊んでみたい?

Passpoint対応のアクセスポイントを実際にいじくってみたい?
ようこそ!(・∀・)

設定方法がまとまった資料は、こちら↓がお奨めです (というか現状これしかない)。

booth.pm

Passpoint対応のアクセスポイントの中でも、比較的安価で設定もいじりやすく、安定しているのはAruba AP-200シリーズでしょう (注: Instant OnはPasspoint非対応, 書籍のガイドにはPasspoint記載なし)。

Aruba無線LAN設定ガイド

Aruba無線LAN設定ガイド

 

 

あれ……軽め?4,000文字?

私、ブログは1,000文字までって言ったよね!

 

コミケでも吹けるeduroam - 会議場にも次世代ホットスポットを ー

C95でひっそり吹かれて以来、恒例になりつつあるコミケ会場でのeduroam。2019年冬のC97では気づいた人も多く、twitterでプチバズっていました。慎重な人は「野良eduroam?」と心配していましたが、そう思われるのも仕方ないかもしれません。場所が場所だけに!?……いや、文化的に見れば立派な研究材料が多数転がっているではありませんか。

eduroamを吹くにはローミング契約が必要

教育研究機関向けのeduroamが、どうしてコミケや民間会議場、市街地で吹けるのでしょうか。eduroamでは利用者認証が必須ですが、その機能はどのように実現されているのでしょうか。

まず、冒頭のコミケの例ですが、eduroam JPのウェブサイトにも参加企業として掲載されている、輝日株式会社が提供していました。

eduroamでは、IEEE 802.1Xに基づいた認証方式が用いられています。通称、1X認証などと呼ばれます。他所ではキャリアWi-Fiなどでも用いられているごく一般的な方式です。詳しくはeduroam JPなどのサイトを見ていただくとして、ざっくり述べると、eduroamではAAAサーバ(RADIUSサーバ)、RADIUSプロキシ、無線LAN基地局を結んだ認証連携ネットワークを用いて、世界中どこの基地局でも利用者認証ができる仕組みになっています。

eduroamを吹こうとした場合、基地局をeduroamの認証連携ネットワークに接続する必要があります。これは誰でも自由にできるものではなく、eduroamの運用者とローミング契約が必要です。すなわち、誰でもeduroamの基地局を立てられるわけではないということです。反対に見れば、正常に認証が通るeduroam基地局は、正規の通信事業者ないしeduroam参加大学 (事業者と同等)が立てたものと見ることができます。

※ 利用者端末の無線LAN設定が正しく行われていることが前提。

eduroamの参加機関には、二種類があります。一つは、大学・研究所のように、自機関の利用者へのアカウント発行と、自機関及び訪問者が利用できる基地局の提供の、両方を行うものです。アカウント発行機関をIDプロバイダ(IdP)、無線LANサービスを提供する機関をサービスプロバイダ(SP)と呼びます。二つ目は、SPのみの機関で、市街地でeduroamを展開するような通信事業者です。もし、通信事業者が自ら、または、システム構築する顧客に対してeduroamサービスを提供したいなら、eduroamに参加すればよいだけです。なお、IdPのみの参加は原則として認められていません。

市街地のeduroamサービスや、eduroamの互恵精神については、以下のエントリもご覧ください。

 

hgot07.hatenablog.com

hgot07.hatenablog.com

コミケのeduroam/Cityroamは次世代ホットスポット

eduroamを吹きたければ、上記のとおり、eduroamにSPとして参加すればよいのです。さて、コミケで吹かれていたeduroam、教育研究機関の人でなくても誰でも利用できるセキュアなローミング基盤「Cityroam」も併設されていました。さらに、このCityroamは、PasspointやHotspot 2.0として知られる規格をベースとした、Next Generation Hotspot (NGH, 次世代ホットスポット)にも対応しています。このため、舞台裏の認証連携ネットワークは、普通のeduroamとちょっと違っていました。

セキュア公衆無線LANローミング研究会、通称NGHSIGにおいて、Cityroamと呼ばれる国内の次世代ホットスポット基盤が運用されています。eduroamのようなローミング基盤は、フェデレーションと呼ばれることがあります。日本には未導入ですが、政府関係者向けのgovroamというものもあります。公衆無線LANで複数のフェデレーションの利用者を受け入れようとすると、これらを結ぶインターフェデレーション・ローミングの仕組みが必要になります。これを実現したのがCityroamです。(Cityroamは現在国内だけの運用ですが、国際展開も可能なアーキテクチャとして設計されています)

Cityroamの認証連携の概要図は、以下のとおりです。複数のフェデレーションやキャリア、無線LAN事業者などを結ぶためのハブ (JP hub)を中心として構成されており、このハブが認証リクエストの経路制御やアクセス制限を行う仕組みです。

Identity federation network of Cityroam.

JP hubを中心とするCityroamの認証連携基盤

図中にあるように、JP hubはWBAローミング基盤にも接続されており、これを介して世界の携帯電話会社のSIM認証も利用可能になるように準備が進められています。WBAローミング基盤は、2020/1の執筆時点でまだ開発中ですが、その準備のためのトライアルCity Wi-Fi Roaming (2018)では、実際にCityroam上でAT&TT-Mobile USなどのSIM認証や、Boingoとのローミングがテストされました。(2019年はトライアルがなく、C97では残念ながらキャリアとのローミングができませんでした)

会議場にも次世代ホットスポット

ある程度大きな会議になると、会議場に臨時の無線LANが設置されていたり、会議場に据え付けの無線LANシステムに会議用のSSIDが追加されていたりします。大学の施設ならばeduroamがあり、安全・自動接続な無線LANを利用できることがありますが、残念ながら民間の会議場でeduroamが使える場所は非常に限られています。また、企業などの研究者はeduroamが利用できない、学術系ではない会議では同様のシステムがないという問題があります。キャリアWi-Fiが導入されている施設ならまだマシでしょうが、訪日外国人には使いにくい問題があります。

会場で事前共通鍵(PSK)の無線LANが提供されていれば十分ではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、PSKは大人数で共通の鍵を利用するため、盗聴のみならず、偽基地局の問題まであります。安全な無線LANシステムを構築しようとすれば、どうしても利用者認証(と個別暗号化)が必要になってきます。それならば、現代の人々はネットワーク上のどこかにアカウントを持っているでしょうから、認証連携でそれを利用したらどうでしょうか。ローミング基盤はまだ開発途上ですが、次世代ホットスポットが普及すれば、そのようなことも容易に実現できるでしょう。Cityroamは、このようなアイディアを具現化しようとするものです。会議場はもちろん、市街地の公衆無線LANも次世代ホットスポットに対応させることは、ネットワークの安全な利用環境の普及という観点でメリットがあります。

会議用無線LANの構築を容易にするCityroam

会議場においてeduroamに対応の無線LANを一時的に構築しようとする場合、従来は、まずどこに問い合わせるべきかを考える問題がありました。また、基地局を認証連携ネットワークに接続するポイントが決まっていませんでした。会議の主催や共催となっている大学が、一時的に認証連携ネットワークを出島として引き出すことも、行われています。しかし、必ずしも最寄りの大学がこのような対応をできるわけではありません。

NGHSIGでは、一時的な会議用無線LANの構築を容易にするために、共通化された基地局の接続手続きと接続点を提供できるよう、運用方式の検討を進めています。試験的に行った例では、JANOG 41, Internet Week 2018, 2019, 大学ICT推進協議会年次大会(AXIES) 2018があります。おっと、コミケもですね。

eduroam was available at Internet Week 2018.

Internet Week 2018でもeduroamサービスを実施

より多くの通信事業者が次世代ホットスポットに対応し、eduroamも含めたローミングサービスを会議無線LANでも容易に利用できるようになることを、願っています。

eduroam非参加の機関でeduroamアカウントを取得する方法はない

eduroam非参加の機関の構成員が、常用できるアカウントを取得する方法は、残念ながらありません。

 

糸冬

 

eduroamは互恵が原則のシステム

なぜeduroam (https://www.eduroam.jp/)に参加していない機関の構成員は、eduroamのアカウントを取得できないのでしょう?

答えは簡単で、eduroamが互恵を前提としたシステムとして運用されているからです。

今どき、どこの大学でもキャンパス無線LANぐらい整備されていますよね? ―― え、無いんですか?ノートPCを抱えた男女学生がさわやかにキャンパスライフを楽しんでいるような絵面が、10年以上前にパンフレットを飾っていたではありませんか。いったいいつから、進歩が止まっているんですか。

今どき、WPA3/WPA2-Enterprise (IEEE 802.1X)による安全な無線LANシステムを導入していますよね?盗聴やアカウント奪取の問題のあるウェブ認証とかじゃないですよね?まさかMACアドレス認証(もどき)なんてザルじゃないですよね?(*1)

802.1Xに対応したシステムなら、他機関とRADIUSサーバを接続して、eduroamのSSIDを吹けば、お互いに幸せになれますよね?

実際、欧州では国境をまたいでの単位互換授業や共同研究が日常的で、商用サービスの高いローミング料金では大変なので、それならキャンパス無線LANを相互利用できるようにしましょうというのが、eduroam開発における一つの大きな動機でした。

*1: MACアドレスは、電波を盗聴すれば簡単に知ることができ、端末で容易に任意の値を設定できます。MACアドレス認証」などと呼ばれるシステムは、まったくセキュリティ対策にはなりません。認証ですらない。安全対策したつもりでかえってセキュリティに鈍感になるという、最悪のパターンです。

非参加機関にアカウント発行を認めることは何が問題か

「教育研究機関の構成員なのだから、eduroamに非参加の機関であっても、アカウントを利用できるようにした方が、教育研究に貢献できるのでは?」

これは一理あります。ところが、これを許すことで生じうるデメリットは小さくないと考えられます。

まず第一に、誰も基地局を提供しなくなる恐れがあります。訪問者にネットを使わせるのはなんか怖いからやめよう、ということなかれ運用が横行することは、火を見るよりも明らかでしょう。基地局が少なくなってしまえば、eduroamとして本末転倒です。せっかく、万一の不正利用時にその利用者まで特定できるシステムなのに、フリーWi-Fiと同じ見方をされた上に、「なんとなくイヤ」で済ませられるのでは、教育のICT対応どころではありません。

(導入を止めている人は、教育研究現場のICT活用を阻害しているという自覚があるのでしょうか)

二つ目の問題として、機関や日本全体の顔を汚す恐れがあります。「あいつらはタダ乗りするばかりで、訪問者の便を図ろうとしない」などと言われたくはないですよね?

以上のことを避けるため、eduroamでは互恵サービスを原則としています。アカウント発行権限を有する形でeduroamに参加する機関に対しては、基地局の提供を義務付けています。(普及促進のために、eduroam JPの黎明期には、基地局数が少なくても良しとしていました。しかし、これはそろそろ見直されるべきでしょう)

それほど件数は多くないのですが、たまに、eduroamアカウントが取得できないかと、問い合わせが来ることがあります。

「大型科研費を持っているのですが……」

「重用な国際プロジェクトがあって……」

「学振に採択されたのですが……」

「短期留学先(共同研究先)で、母校からeduroamアカウントを取得してくるように言われたのですが……」

いかなる理由でもダメです。eduroam JPが個人向けにアカウントを発行する仕組みはありません。

会議や訪問先機関で配られるビジター用アカウント

eduroam参加機関で開催される学会などでは、最近、eduroamの利用が基本となっているケースが増えています。eduroamアカウントを持っている参加者ならば、会場に入るだけで、安全かつ自動的に無線LANが利用できるので、大変便利なものです。

会議用専用の無線LANが用意されていることもありますが、会議によっては、eduroamのビジター用アカウントが配布されていることもあります。非参加機関の人でも、一時的にeduroamの基地局が使えるというものです。もちろん会期中に限られますが。とりあえず、試す分には使えるでしょう。

短期留学や共同研究などで、訪問先機関からビジター用アカウントが提供されることがあります。このアカウントの取得可否については、受け入れ先に相談してください。

一部のeduroam基地局で利用できるANYROAMアカウント

米国のeduroamを運用しているANYROAM社 (https://www.anyroam.net/) が、誰でも取得できるANYROAMアカウントを提供しています。現在は無償で、本人紐付けのためにSMSが必要です(日本の電話番号でも可)。

このアカウントは厳密にはeduroamアカウントではないのですが、eduroamのシステムの上で利用できるようになっています。具体的には、ANYROAMのアカウントも受け入れると表明したeduroam参加機関のみで、このアカウントを利用してeduroam基地局に接続できます。

ANYROAMのシステムは、eduroam参加機関におけるビジター利用の便を図るために開発されました。しかしながら、現在700近くある米国のeduroam参加機関でも、ANYROAMを受け入れているのは数十機関しかないようです。

国内では、セキュア無線LANローミング研究会 (NGHSIG) が展開している市街地等の基地局で、ANYROAMが利用できます。

nghsig.jp

eduroam非参加機関のみなさまへ

2019/12現在、世界101か国、国内267機関に導入されているeduroamに参加していないことは、大損していると言えるでしょう。

参考までに、東北大学の場合、キャンパス内での実利用者全体に占める学外アカウントの割合は、学会時期で訪問者が増える9月でも8%程度です。大したことないでしょ?構成員の学外利用は35~45%と高いですが、訪問先はばらばらで、当然負荷も分散しています。

eduroamばかりでなく、学術認証フェデレーション(学認)も、ICT時代の教育研究環境の構築には必須のシステムでしょう。「うちは入っていないからなぁ」と待つばかりではなく、積極的に導入を働きかけてみてはいかがでしょうか

機関の情報システムや規程類、時代に合わせてきちんとアップグレードされていますか。

なぜルノアールではeduroamが使えるのか ― 市街地におけるeduroamサービス、そして情報化社会のインフラ ―

[2020/2/27追記] 大変残念なことに、先頃、当サービス終息のお知らせがありました。

以下、歴史的記録として記事を残しておきます。

 

eduroam at Cafe Renoir

ルノアールで優雅にeduroam

eduroamが使えるからという理由でわざわざルノアールに足を運ぶ人も少なくないと思います。私も東京出張の際には度々お世話になっています。ルノアールには貸し会議室があるので、小規模な会議にも便利です。Twitterを眺めていると、大学も研究機関も無さそうな市街地で、突然eduroamにつながり、なぜここにあるのかと驚きのツイートもちらほら観測されます。教育研究機関向けの無線LANローミング基盤であるeduroamなのに、それこそ「なんでここにeduroamが!?」です。当記事では、市街地等のキャンパス外におけるeduroamサービスの動向について説明します。

それはlivedoor Wirelessから始まった

eduroamは、執筆時点(2019/12/10)で世界約100か国(地域)、北はスバールバル諸島から南はチリやニュージーランドまで、南極を除く全大陸、そして国内でも約270機関で利用できる学術系インフラです。日本は、2006年8月にeduroamに加盟しました。(参考: https://www.eduroam.jp/)

加盟から間もない2009年頃、eduroamの開発元の欧州TERENAの会議などに参加している時に、学生の集客などを期待して大学の近所のパブにeduroam基地局を置いているという話を聞きました。社会を巻き込むようなムーブメントを、羨ましく思ったものです。eduroamは、参加機関の間でキャンパス無線LANを相互利用できる仕組みですが、これを市街地にも拡大できれば、情報の世界でキャンパスを仮想的に拡大できるでしょう。大学の研究や教育というものは、キャンパス内での活動に閉じているわけではありません。世界のどこにいても、教材や研究材料は転がっているのです。

後藤, 曽根, "キャンパス無線eduroam導入のメリットと国内外の動向," SENAC Vol.45, No.1, 2012. https://www.ss.cc.tohoku.ac.jp/refer/pdf_data/v45-1/v45-1_p54-59.pdf

そこに、渡りに舟といった感じで、(旧)ライブドア社から約一年間の実証実験の申し出がありました。社会貢献という形で、市街地における同社の商用無線LANインフラ「livedoor Wireless」の上でeduroamサービスを提供したいということでした。詳しくはこの記事を↓

internet.watch.impress.co.jp(旧)livedoor Wirelessは、電柱を利用するというユニークな視点で屋外アクセスポイントを展開しており、23区内に約2,300か所のホットスポットを展開していました。また、カフェや貸し会議室などの約130か所にも屋内アクセスポイントを展開していました。喫茶室ルノアールは、このlivedoor Wirelessを導入していたのです

実証実験が終了した後、このeduroamサービスはライブドアにより正式サービス化されました。つまり、livedoor Wirelessを導入していた施設では、そのままeduroamサービスが利用できるようになったということになります。

さて、ライブドアのサービスは色々と経緯が面倒なので端折りますが、livedoor Wirelessの事業は後にデータホテル、NHNテコラス(現在の代理窓口)を経て、KDDIに移管されます。そして、livedoor Wireless自体が2013年4月をもってサービス提供終了となります。この過程で、柱上のアクセスポイントは撤去され、屋外サービスが終息します。

ja.wikipedia.org公衆無線LAN事業のKDDI譲渡後も、livedoor Wirelessを導入していた施設ではできるだけサービスを維持するように配慮されたようで、eduroamサービスも継続されました。eduroam JPサイドで最も当サービスに近い私でも、社内の事情は見えないのですが、激動の歴史の中、eduroamサービスを維持するために、担当者が相当頑張ってくれたのだと思います。

livedoor Wirelessのお陰で、日本は世界が羨むような最先端の「市街地eduroamサービス」を得ることができたのです。なお、eduroam JPのウェブサイト https://www.eduroam.jp/ に若干説明がありますが、現在、世界各地にある市街地eduroamサービスの多くは、日本の後に実現されたものです。

現在主流の、セキュリティ面プライバシ面ともに問題の大きい、暗号化無しや共有鍵(PSK)によるフリーWi-Fiの代わりに、正規の通信事業者が運用し、偽基地局に誘導されにくい、安全な無線LAN接続が可能なeduroamサービスが提供されるということは、教育研究環境の改善のみならず、社会全体の情報化の観点でも重要な意味があると言えるでしょう。

なお、サービスエリアとして、喫茶室ルノアールを主として挙げましたが、ルノアール系列のCafeルノアールやミヤマ珈琲、NEW YORKER'S Cafeなどでも、eduroamが利用できる店舗があります

[2019/12/28追記, 29更新]
ルノアールさんはeduroamの案内を出していないので、もしかするとeduroamの集客効果すらご存知ないかもしれません。

市街地eduroamサービスのセキュリティ

大学でも研究施設でもないところで、いきなりeduroamに接続されたとき、これは本物だろうかと不安になるというのは、自然なことでしょう。結論から述べると、スマフォやPCなどの端末で正しくeduroamの接続設定が行われている限り、接続できた基地局は本物で、安全に利用できます

ただし、証明書が異なるといったエラーが端末に表示された場合は、安易に接続を強行しないように、注意が必要です。

以上のことは、eduroamに限らず、1X認証でEAPを使う様々な無線LANローミングシステムにも適用される、一般的なものです。1X認証のセキュリティについては、後日、別記事を書くつもりです。

市街地eduroamサービスの展開動向

eduroamの参加大学が、市街地などにある付属施設で、eduroamサービスを提供していることがあります。世界各地で、自治体が市内のフリーWi-Fiにeduroamを併設していたり、空港・鉄道駅や博物館、病院などの公共施設にも導入が進められています。最寄りの大学が市内各所に基地局を設置している例もあります。

eduroam in Porto

ポルトウォーターフロントで食事をしていたらeduroamがつながっていた.

eduroam in Munich

ミュンヘンの中心部、マリエン広場でもeduroamが使える.

eduroam in Auckland, NZ

ニュージーランドオークランド中心部,なぜかここでもeduroamが飛んでいる.

国内では、私が音頭をとっているセキュア公衆無線LANローミング研究会において、教育研究以外の一般市民も利用できる「Cityroam」を国内展開しており、その基地局で市街地eduroamサービスも拡充しています。協力事業者が、飲食店やショッピングモール、駅、ホテル、そしてスキーリゾートまで、利用範囲とサービスエリアを広げています。

 

nghsig.jp

cityroam.jpもし既に、1X認証対応の商用無線LANサービスがフリーWi-Fiと同じ基地局に併設されているなら、基地局がWPA2-Enterpriseに対応していて、事業者にRADIUSの運用スキルもあるはずです。フリーWi-Fi側のネットワークに1X認証のSSIDを追加して、eduroamやCityroamの認証連携ネットワークに接続することは、技術的にそう難しくはないはずです。せっかく自治体がフリーWi-Fiを整備するなら、ぜひローミングユーザを受け入れられる、セキュアな接続手段も併設してほしいと思います。最寄りの大学からの働きかけも重要でしょう。

その先にある情報化社会のインフラ

LinkNYCやInLinkUK、WiFi4EUに見られるように、世界各国がインターネットアクセス手段を社会の重要インフラの一部とみなし、誰でも利用できるフリーWi-Fiを展開し始めています。市街地におけるeduroam (およびCityroam)は、その一部を担うシステムとして、社会全体の情報化の推進に貢献すると考えられます。利用者の皆さまには、ルノアールなどで優雅にeduroamしながら、このような先進的なサービスを提供している事業者と店舗に、存分に感謝していただければと思います

eduroam at Cafe Renoir

ルノアールで優雅にeduroam - その2

 追記:AXIES2019の発表資料です。
「キャンパス無線eduroamと次世代ホットスポットの最新動向」(PDF)

出先でeduroamがつながらないときに

訪問先の機関でeduroamがつながらないときに、どのように対処すべきか、考えられる原因は何かを、まとめてみました。

つながらない!と叫ぶその前に

その端末、所属機関で接続できることを確認しましたか?所属機関でも接続できていないものが外で利用できるとは考えにくいです。

よその機関でeduroamを利用する場合、認証情報のやり取りが複数機関にまたがることから、問題の切り分けが面倒になることが多々あります。

eduroamの基本的な使い方は、「所属機関内で普段利用していて、訪問先でも安全かつ自動的につながる」というものです。訪問先でビジターアカウントを使う場合を除いて、以下では所属機関で既に正常に利用できていることを前提にしています。

別エントリでも書きましたが、eduroamのユーザ名には必ず@に続くレルムが必要です

"eduroam つなぎかた" 検索 - 接続失敗への第一歩 - hgot07 Hotspot Blog

eduroamのSSIDが見当たらない

終了。

そこにeduroamサービスはありません。

(Passpointによる接続を除く)

認証は成功するが通信できない

他の人が通信できている場合

認証が成功しているなら、eduroamの基盤は正常に動作しています。(ここ重要)

よくあるのが、端末がアドレスを取得できないケースです(DHCPの不調)。特にWindowsでは、何かの拍子にDHCP機能がおかしくなることが多々あります。認証のエラーが出ないのに、「インターネットなし」や下図のような表示のまま、いつまでも通信できないようならば、DHCPの問題の可能性が高いです。Windowsを一旦ログアウトして、ログインしなおすか、再起動により、正常になることがあります。

端末の再起動でも問題が解決しない場合、訪問先機関のサービスデスクなどに相談しましょう。現地の無線LANシステムの不具合の可能性が高いです。

Address unavailable (DHCP failure) on Windows  DHCP failure on Win10

Windowsでアドレスが取得できない例(DHCP障害)


大勢が通信できない場合

訪問先機関のサービスデスクなどに報告しましょう。

認証が成功しているなら、eduroamの基盤は正常に動作しています。訪問先の無線LANシステムの障害、または、リソース不足が疑われます。

周囲で誰も接続できていない、または、接続が不安定な場合

訪問先機関のサービスデスクなどに報告し、相談しましょう。

訪問先の無線LANシステムの障害、または、リソース不足が原因の確率が高いです。

一部の利用者のみ正常に利用できている場合

訪問先機関の利用者のみが正常に利用できている

訪問先機関のサービスデスクに報告、相談しましょう。

おそらく、その機関の無線LANシステムか、その国のeduroam基盤に障害があります。

訪問先の国の利用者のみが正常に利用できている

訪問先機関のサービスデスクに報告、相談しましょう。

おそらく、その国のeduroam基盤に障害があります。サービスデスクから国のeduroam運営者に障害報告を上げてもらう必要があります。
(eduroam JPでは、エンドユーザからの直接の報告・相談は受け付けていません。eduroam参加機関の管理者から連絡する必要があります)

一部の国の利用者が正常に利用できている

自分の所属機関のサービスデスクに報告、相談しましょう。

ある国の複数機関の利用者が軒並み、認証に失敗する場合、その国のeduroam基盤に障害がある可能性が高いです。国際的なeduroam基盤に一部障害があっても、同様の状況になることがあります。

自分の所属機関の利用者が軒並み、認証に失敗する場合、所属機関の認証サーバに障害がある可能性が高いです。 

他人が正常に利用できているのに自分ばかり認証失敗する

個人的な問題に見える場合、自分のeduroamアカウントが期限切れになっていないか、思い出してみましょう。(下記エントリ参照)

"eduroam つなぎかた" 検索 - 接続失敗への第一歩 - hgot07 Hotspot Blog

出先での再設定は、セキュリティの観点からもお奨めできません(偽基地局に引き込まれる恐れ)。SSID(プロファイル)の削除から接続設定をやり直しても、状況が改善することはあまりないでしょう。

最近、OSをアップデートしましたか?端末のOSをアップデートした場合、OSの不具合で認証情報が壊れていることがあります。

iOSでは、アップデート後に認証情報が吹き飛ぶことがたまにあります。この場合は、SSID(プロファイル)の削除から接続設定をやり直して、修正できる可能性があります。

自分の所属機関のサービスデスクに相談しましょう。

または、出先で親切な人が手伝ってくれるかもしれません。(私のサポートは有償(ビール一杯)です)

余談: 優雅にeduroam - Twitter Search

"eduroam つなぎかた" 検索 - 接続失敗への第一歩


"eduroam つなぎかた" で検索してここに辿り着いた人、運が良いほうです。なぜなら、これが接続失敗への第一歩であることを知ることができるから。

このエントリでは、学術系の無線LANローミング基盤であるeduroam (エデュローム)に初めて接続しようとする人が犯しがちな失敗を紹介しながら、接続設定の注意点をまとめてみます。とにかくすぐにeduroamを使いたいという方、ウェブ検索ではなく、所属機関が提供する接続ガイドに従ってください絶対にだ!

「ウェブ検索してみる」はダメ

手っ取り早くウェブ検索してみるのは、接続失敗への第一歩です。eduroamでは利用者認証が必要ですが、様々な認証方式が選択できるため、どれを採用しているかは機関ごとに異なります。利用者(端末)認証に、IDとパスワードを使用している機関もあれば、電子証明書を使用している機関もあります。メールと同じIDを使用している機関もあれば、eduroam専用のIDを使う機関もあります。従って、検索でヒットした他機関の接続手順を参考にすると、誤った設定になることが多々あります。

ウェブ検索ではなく、必ず、所属機関が提供する接続ガイドに従ってください所属機関のガイドに従う限り、eduroamの設定はそれほど面倒なことはありません。eduroam JPのウェブサイト https://www.eduroam.jp/ でも接続手順が説明されていますが、これは標準的な接続手順の参考にすぎません。

できるだけCATを使う

猫🐈ではありません。eduroam Configuration Assistant Tool、通称CATです。

所属機関がCATを使うように指示している場合は、できるだけCATを使ってください。CATは世界的にもよく使われているツールで、正しいネットワークに接続できるかを事前に確認するための「サーバ認証」の設定も、自動で行ってくれます。スマフォやPCなどで、サーバ認証が有効になるように設定されていれば、偽基地局に誤って接続される恐れがなくなります。

(サーバ認証を行わない設定の場合は、巧妙に細工された偽基地局に誤って接続されるリスクが高まります。とは言っても、暗号化無しやPSK(事前共有鍵)を使う(超ザルな)無線LANシステムよりは、安全と言えるでしょう)

レルムを忘れずに付ける

所属機関が、ID・パスワードを使う認証方式でeduroamサービスを提供している場合、ユーザ名の入力の際に必ずレルムを付けるようにします。

eduroamのユーザ名は、ユーザIDの後ろに@ (アットマーク)とレルムが付いたものです。例えば alice@example.ac.jp のような形になります。認証サーバのログを見ていると、レルムが付いていないユーザ名が時々流れてきます。

レルムを付け忘れていると、よその機関を訪問した際に認証が通らず、折角のeduroamのローミング機能が生かせません。

使用する文字と空白に注意する

IDやパスワードを手入力する際は、文字の間違いに注意しましょう。IDとパスワードで全角文字が使われることはないので、必ず半角文字を使います。

全角と半角が分からない?これ→@と、これ→@です(オイ

下の図を見てもらうと分かるように、全角と半角、小文字のエル(l)と大文字のアイ(I)など、見た目がそっくりの文字があるので、十分に注意すること。できるだけ、字形が区別しやすいフォントで確認すると良いですね。

「もしもし、わたしスペースさん。あなたの後ろにいるの」

冗談かと思いきや、行末にスペース(空白文字)が紛れ込んでいる失敗例も結構あります。たぶん、コピペした時にスペースまで拾っているのでしょう。これは見た目で気づきにくいので、入力時に十分に注意しましょう。

cf. NII Open Forum 2018 presentation

NIIオープンフォーラム2018より https://www.nii.ac.jp/service/openforum2018/track/day2_1.html

所属機関内で設定し接続確認する / 出先ではなるべくいじらない

eduroamの接続設定は、原則として所属機関内で行いましょう無線LANシステムも認証システムも機関内なので、不確定要素が少なく、失敗する確率が低いと言えます。もしうまくいかなかったら、所属機関のサポートデスクに相談しましょう。

出先で接続設定をしようとすると、複数機関のシステムが関係することになり、問題の切り分けが難しくなります。また、設定に不慣れな場合は特に、偽基地局にうっかりつないでしまうといったリスクも高くなります。

eduroamの基本的な使い方は、「所属機関内で普段利用していて、訪問先でも安全かつ自動的につながる」というものです。普段使いしているものがどこに行ってもシームレスに使える、これがeduroamの真価です。

うまくいかなかったらSSIDの削除からやりなおす

うまく接続できなかったら、SSID(プロファイル)の削除からやりなおしましょう。SSIDに紐づけられたプロファイルを手動で変更すると、裏に変な設定が残っていて、入力が正しくてもうまくいかないことがあります。

iOSでどうしても認証失敗が解決しない場合

iOSで、SSIDの削除から再設定を行っても認証失敗が解決できなくなることがあるようです。確実なことはまだ分かっていません。

このような症状に陥った場合、ネットワークリセットをすると復旧できることがあります。ただし、eduroam以外の自宅などの無線LANの設定もすべて消えてしまうので、覚悟が要りますが。

再設定?アカウントの期限はダイジョブ?

それまで正常に使えていたのに、突然認証が通らなくなってしまった場合、無線LANシステムの障害かもしれませんが、それよりも、自分のeduroamアカウントが期限切れになっていたりしませんか?

あれこれいじくる前に、アカウントをいつ取得したか、期限はいつ頃かを思い出してみましょう。

[2019/12/26追記]
それから、卒業や退職などでアカウントが期限切れ・無効になったら、すみやかにeduroamの無線LAN設定を端末から削除しましょう。後生大事に残しておくものではありません。無効なアカウントは、eduroamのインフラに負担をかけるばかりでなく、端末のバッテリの持ちをちょっとだけ悪くします。

 

とにかく、所属機関の情報を見ましょう!

管理者泣かせのつぶやき「eduroamつながらない」

Crying eduroam-tan

пёнさん作画 https://twitter.com/ask_a_12/status/1041664838970224641

学術機関向けの無線LANローミングシステム「eduroam (エデュローム)」は、自分の所属機関でアカウントを取得しておけば、国内外の参加機関でそのまま現地の無線LANが利用できる大変便利なものです。執筆時点(2019/12/1)で世界101か国・地域、国内では約270機関が参加しており、ICT活用時代の重要インフラと言っても過言ではないでしょう。余談ですが、eduroamの父であるKlaas Wierenga氏がこの業績で2019年にInternet Hall of Fame入りしています。

Klaas Wierenga | Internet Hall of Fame

当エントリでは、eduroamに絡むちょっと困った話を紹介します。

 

twitterで"eduroam"をキーワードに検索してみると、次のようなつぶやきが時折見られます。たまに数百リツイートでバズるようなdisりもあります。結論から書くと、利用場所と、できれば所属機関まで書いて欲しいということです。

  • 「eduroamつながらない」
  • 「eduroam sucks...」
  • 「Odio eduroam...」

eduroamの無線LANにうまく接続できないとき、利用者がカジュアルにこのようなつぶやきをすることは、自然なことかもしれません。ところが、管理者から見ると、実につらいことなのです。

理由は幾つかありますが、おそらく最も気持ちのやり場がないのは、「ほとんどのトラブルの原因が無線LANシステムにあり、そもそもeduroamの問題ですらない」という点でしょう。つまり、自分たちがせっかく優れたeduroamシステムを構築し、正常に運用できているのに、参加している各機関の問題によって不当に矢面に立たされているのです。

 eduroamの認証連携ネットワークは、下図のようになっています。eduroamではRADIUSプロトコルによって認証情報のやり取りを行います。実際の認証連携ネットワークでは、P2P的な接続を行うRadSecも部分的に導入されていますが、管理上の構造はこの図の階層構造のとおりです。

Identity federation network of eduroam.

eduroamの認証連携ネットワーク (国立情報学研究所オープンフォーラム2019「eduroam基本チュートリアル」より)

 eduroamシステムを広く捉えると、機関ごとのRADIUSサーバや無線LANシステム(アクセスポイント)までがインフラ部分、利用者端末を含めたものがシステム全体になります。しかしながら、各機関内のシステムは機関の無線LANシステムそのもので、各機関の責任で管理・運用されていることから、eduroamの基幹部分は国レベルのプロキシ(FLR)までと考えられます。キャリアWi-Fiや契約型の公衆無線LANサービスが一枚岩でサービス品質を管理しているのと違い、eduroamではサービス品質が各機関のスキルに大きく依存しているというのがポイントです。(一応、eduroamの評判を傷つけないような運用は求められています)

 eduroamのトラブル(と言われるもの)はほぼ全てと言って良いほど、機関の無線LANシステムや認証サーバ、そして利用者側に原因があります。もし国のproxyに障害があれば、国内の全ての機関で障害が出るので大騒ぎになるはずです。実際にeduroamの基幹部分で障害が起こることは稀です。すなわち、「eduroamつながらない」と言われても、基幹部分の管理者はつらいだけです。

冒頭に挙げたつぶやき例のもう一つの問題は、障害対応に必要な情報が一切含まれていないことです。システム側に何らかの障害があるなら、責任感のある管理者はすぐに直したいことでしょう。接続できないのがどの場所か特定できれば、基地局を提供している機関を特定してそこの管理者に連絡するなり、機関の管理者が自ら気づいて障害対応を開始することができるでしょう。これができなくて、単にeduroamの名前でdisられているだけなので、管理者は指をくわえて眺めることしかできません。

また、接続できないと言っている人がどの機関に所属しているのかが不明なので、どの機関の認証サーバに問題があるのかも分からず、やはり障害対応ができません。特に、認証に失敗する原因の多くが、設定・操作ミスやアカウント期限切れといった、利用者側の問題であることもあり、せめて所属機関さえ分かればトラブルを未然に回避できるように利用案内を改良してもらうこともできそうなのに、そういった行動すらとれないのです。

いかに管理者泣かせな状況なのか、お分かりいただけたでしょうか。

せっかくの便利なシステムも、利用者の故意または意図しない批判によって不利益を被るなら、とても残念なことです。別エントリに書いたように、無線LANシステムの設計・構築・運用にはそれなりのスキルが要ります。

 

hgot07.hatenablog.com

障害部分の切り分けを利用者に期待することは難しく、むしろ情報システムの設計としては避けるべきことなのですが、何か障害があって、早く直してもらいたいならば、せめて「利用場所」と「所属機関」が分かるように書いて欲しいものです。もちろん、迅速な対応を求めるなら、twitterにつぶやいて誰かが拾ってくれるのを期待するのではなく、所属機関のサポートデスクに問い合わせるべきでしょう。

 

ところで、twitterを眺めていると、eduroamの接続不良をからかうようなツイートが時折大量にRTされてバズったりしています。スペイン語のことが多いのですが、何かそういう文化圏なのでしょうか。あれ、管理者に相当嫌われているでしょうね。