hgot07 Hotspot Blog

主に無線LANや認証連携などの技術についてまとめるブログです。ネコは見る専。

OpenRoamingとは何か ~前夜編~

何のひねりもないタイトルですが、そういうことです。

2019年春にCisco OpenRoamingとして登場して以来、1年間ほど実態が謎だったのですが、やっと形が見えてきました。とは言えまだ開発中で、流動的なところが多々あります。詳細はWireless Broadband Alliance (WBA)からのアナウンスを待つとして、これまでの経緯と、執筆時点で判明していることを紹介します。
(つうか、どんな人が読むの、このニッチなブログ……)

まずは現状から。Ciscoから始まったOpenRoamingは、2020年3月にWBAに移譲されて、Wi-Fi業界で中立的なローミングフェデレーションとして再出発しました

本稿の内容は、次世代ホットスポット(NGH)やPasspointなどの知識を前提としているので、馴染みのない人はこちら↓を先にどうぞ。

hgot07.hatenablog.com

Cisco OpenRoaming

2019年春、Ciscoからちょっと驚きの発表がありました。Wi-Fi 6や5Gの話題が盛り上がっていた頃で、当時のブログのタイトルからも、これらに絡めたプロモーションだったことがうかがえます。
(ちなみに、国内では政府を筆頭にセルラーばかり語られていますが、海外ではセルラーWi-Fiを組み合わせて5Gとしてプロモーションすることが多いのです。これには反対する人々も多いのですが)

OpenRoaming: Automatic and Seamless Roaming Across Wi-Fi 6 and 5G - Cisco Blogs

blogs.cisco.com

Roamingとあるので、

  • eduroamみたいな無線LANローミング基盤なのかな?
  • それともWi-Fiと5Gを結ぶシステムなのかな?
  • Openとあるけど自社製品に有利な何かではないのかな?
などと、色々な憶測が飛び交いましたが、結局ふんわりとした情報ばかりで、実態がよく掴めませんでした。何より驚いたのは、もしローミング基盤なら、WBAが計画中だったものとぶつかりそうという点です。CiscoWBAのメンバーなので、知らなかったわけはないでしょう。

プロジェクトのポータルサイトも立ち上がりましたが、詳しい話はなく、情報が欲しければ登録してねという程度のものでした。こちら↓ですが、既にWBAに譲渡後の情報が入っており、当時の情報は消えていくのでしょう。

openroaming.org

さて、メールアドレスを登録してみたのですが、一度だけあまり実践的でないメールが飛んだ後、さっぱり連絡が来ません。そうこうしているうちに、不動産業界のCanary Wharf GroupがOpenRoamingに参加したとか、情報が流れてくる。しかし、技術情報はいつまでも謎。これはいったい何?

悶々として待っていたら、既に2019年秋、WBA Wireless Global Congressがやってきました。発表を聞いても、まだはっきりとした形が掴めません。DNA Spacesに登録して、あちらから声をかけてもらうしかない?そんなのでopenなの?……色々と疑問が渦巻いたのですが、徐々に見えてきたのが、どうやら基地局周りの設定を自動化する機能が含まれているらしいということ。なるほど、ローミング基盤よりも少し低いレイヤで、基地局周りの管理の標準化?🤔

Ciscoの人曰く、他のベンダにもOpenRoamingの参加を促しているとのこと。うーん、でも大手他社は動いていませんよね?

……と、こんな具合のまま2020年を迎えたのでした。もしかしたら、DNA Spacesに登録していた人たちは、もう少し詳しい情報を得ていたのかもしれません。誰でも参加できる"open"なインフラにするという話だったのですが、全然openではないですよねぇ。

Cisco OpenRoamingからWBA OpenRoamingへ

2020年3月、WBAより、

突然の
_人人人_
> 発表 <
 ̄Y^Y^Y ̄

WBA Assumes Control of OpenRoaming - Wireless Broadband Alliance

wballiance.com

この発表によると、

OpenRoaming, a technology for seamless Wi-Fi onboarding developed by Cisco, is built upon a set of standards and guidelines developed by the WBA and now adopted as an industry wide initiative led by the WBA.

とのことです。ということは、OpenRoamingは「技術」なの? "Wi-Fi onboarding"って何?……と、新たな疑問が。

内部でもOpenRoamingの定義が揺れていたようなので、仕方ないところもあります。そのうちしっかりした定義が出てくるでしょうが、おそらく技術や運用システムではなく、ローミングフェデレーションを指すことになると思われます。

この発表だけでは見えにくいですが、OpenRoamingの名前ごと完全にWBAに移管されるようです。つまり、名実ともにベンダ中立になるはずです。

WBA OpenRoamingとは何か

NDAがあるので公表前のことは書けませんが、現時点で公表されていることは以下のとおりです。(詳しくは後日、別記事で)

まずOpenRoamingが指すものですが、最近公開されたFAQには "OpenRoaming is a global Wi-Fi roaming federation" と書かれており、eduroamと同様に、ローミングフェデレーションやその基盤ということになるでしょう。実際に裏で動いている認証連携ネットワークや、付随するシステムは、区別されるはずです。(これまでの乱の元だった)

wballiance.com

2016年から2018年に渡ってWBAが実施したCity Wi-Fi Roaming trialでは、世界中のキャリアやWi-Fi ISP、City Wi-Fiなどを結んで、次世代ホットスポット(NGH)によるローミング基盤の実証実験が行われました。国内ではセキュア公衆無線LANローミング研究会 (NGHSIG)が2017, 2018年のトライアルに参加しました。WBAでは、このトライアルを発展させて、より高機能で汎用的なローミング基盤を開発する計画があったものの、しばらく決まった名称がありませんでした。最近はGlobal Roaming Federation (GRF)と呼ばれていました。

あぁ、それだとOpenRoamingとぶつかるのでは?🤔

えぇ、これがまさにこの一年間悶々としていたところなのですが、要するに同じものになります! (Ω ΩΩ<な、なんだってー!!)

だんだん見えてきましたね?

"open"とありますが、OpenRoamingに個人で参加することはできるのでしょうか?つまり、自前のIdPを立てて、自宅に基地局を置いてローミングユーザを受け入れるというのは? ― 無理です。一般に、ローミング基盤に参加する場合、認証連携の技術ばかりではなく、事業者間の信頼関係が必要です。通信事業者か相応の組織が前提となります。

OpenRoamingの技術仕様は、WBA WRIXが基本になっています。また、従来の認証連携ネットワークで主流だったRADIUS + IPsecに代わり、RadSecが使われることも公表されています。

これ以上のことは、WBAからの公表をお楽しみに。

 

おわり